六半うずくまる かなり寒い
古畑任三郎S2E7「動機の鑑定」のあらすじとトリック解説です。春峯堂のご主人(澤村藤十郎さん)が犯人です。

あらすじ
春峯堂(しゅんぽうどう)のご主人と美術館の館長は『慶長の壺』を美術館に展示しようとしていましたが、二人が手に入れた壺は陶芸家の川北百漢がつくった贋作でした。
贋作を展示しようとしていたことが世間に知れると春峯堂のご主人と館長の名誉が失墜するため、ふたりは贋作という事実を公表しようとする川北百漢を殺害。川北の死を強盗殺人に偽装し、ご主人と館長はアリバイを作ります。
川北の死体発見後、館長はアリバイが崩れてしまい、古畑に問題の壺の再鑑定を依頼されてしまいます。館長はご主人に相談して壺を本ものに取り換えようとしますが、館長は自首しようとします。発覚を恐れたご主人は館長も自殺にみせかけて殺害し、全ての罪をなすりつけようとします。
しかし、ある名前の壺を知っていたということが証拠となり、ご主人が殺人現場にいたことが明らかになります。決定的な証拠を突き付けられたご主人は自供し、罪を認めます。
登場人物(キャスト)
主な登場人物をまとめます。春峯堂の主人は本名不明です。
名前 | キャスト | 説明 |
---|---|---|
春峯堂の主人 | 澤村藤十郎 | 犯人 古物商 |
永井 | 角野卓造 | 共犯者 美術館館長 |
川北百漢 | 夢路いとし | 被害者 陶芸家 |
犯人
春峯堂のご主人(しゅうぽうどうのごしゅじん):名前不明。古物商だが、その評判は最悪らしい。美術館館長の永井と共謀して陶芸家を殺害する。そして、共犯者である永井も殺している。いろいろと作業をやらされて最後は殺されてしまう永井が、犯罪者だけど、ちょっとかわいそうである。
陶芸家の殺人については強盗の仕業に偽装した上で、アリバイ工作を仕込んでいる。明確な共犯者がいる点や連続殺人になる点などが古畑シリーズにしては、やや珍しいかもしれない。
ご主人は永井を殺害するときに本物の『慶長の壺』を凶器にしている。なお、『慶長の壺』は陶芸家殺害のきっかけになった、いわば思い出の一品である。
誰だって本物を大事にして、レプリカはそこそこの扱いにしそうである。そんな先入観から、腐っちまった古物商であるご主人にはもう審美眼がなく、間違えて本物を手に取ったかと思ってしまう。ところが、実はあえて本物で殴っていた。つまり、男だと思っていたら女だったみたいな感じの叙述トリックが仕込まれていた。
「古物商の私なら見分けがつく」と主張するために、あえて本物を凶器にしたのであれば、犯人の偽装工作である。ただ、思いっきり贋作に騙された上での陶芸家殺しなので、犯人とか動機とかを知っている立場からすると「なに言ってんだこいつ」だったりする。
トリック解説
犯人は川北を強盗殺人にみせかけて殺害後、川北が生きているようにみせて犯行時刻を遅らせ、アリバイを作ります。
川北殺害後、ご主人は自主しようとする館長も自殺に見せかけて殺害します。
強盗殺人の偽装
強盗殺人にみせるため、財布から紙幣を取る、川北の自宅を荒らす、川北の作品を盗む、時計を進めて破壊する、などの細工をします。さらに、窓ガラスも割ることで、強盗が窓から入ったようにみせています。
アリバイ工作
共犯者の館長は川北殺害後、現場となった川北の自宅を訪れ、川北のふりをしてご主人に電話します。川北が生きているようにみせ、犯行時刻をずらすことで、ご主人は完璧なアリバイを作ります。
ご主人のアリバイ
骨とう品の競売に参加し、川北のふりをした館長のからの電話を受けます。電話を取り次ぐ人物がいるので、川北が生きているということを第三者に証言させることができます。
館長のアリバイ
館長は美術館の資料室にこもって仕事をしていたというアリバイを作ります。この時、資料室から抜け出し、川北の自宅へ向かい、競売に参加しているご主人に電話をします。
犯人のミス
古畑が真相に辿り着くヒントです。
ちぐはぐな証拠
川北殺害現場には辻褄の合わない証拠が残っていました。
ガラスの破片
物取りの犯行にみせるため、窓ガラスを割りましたがこの破片が死体の上にのっていました。これは強盗が侵入した時、川北は既に死んでいた(倒れていた)ことを意味します。
スーツケース
永井館長殺害について、犯人は自殺に偽装しましたが、被害者は荷造りして高飛びの準備をしていました。自殺する人間がスーツケースに下着をつめるというのは、ちょっと不自然です。
三耳壺
ご主人は和物を扱っていましたが、競売で購入したのは高麗の三耳壺(さんじこ)でした。これは、競売の時間を延ばすため、仕方がなく買ったものでした。
犯人像
単なる物取りの犯行と考えるには、納得できない点がありました。
盗まれた壺
川北の自宅には壺がいくつかありましたが、盗まれた壺は全て高価な川北の作品でした。素人がみるとどれも似たような壺にしかみえないので、犯人は骨とう品に詳しい人物ということになります。
犯行の証拠
ご主人と館長の犯行を匂わせる証拠です。
じぶたれ
現場に呼ばれたご主人は立ち去るとき、一緒にいた館長に「じぶたれ」と呟いています。じぶたれは出来が悪いという意味でした。
気の利くスタッフ
部屋にこもって仕事をしている館長に、スタッフが気を利かせてお茶を用意していました。このスタッフが「返事はなかった」と証言したため、ほんとうに部屋にいたかどうか疑わしい状況になります。
うずくまる
ご主人は、川北の自宅にあった『うずくまる』という壺について証言しますが、その壺の存在を知ることができたのは、犯行があった時だけでした。これは、川北のノートに「六半うずくまるかなり寒い」と記されていたことから判明します。
ご主人は18時に川北の自宅を後にしたと証言していましたが、『うずくまる』が窯から出されたのは18時30分でした。『うずくまる』に永井館長の指紋が付着していたため、館長が壺を持ち出したのは間違いないです。ただし、ご主人が『うずくまる』の存在を知るためには、18時30分以降に、犯行現場に入らないといけません。
結末(動機について)
春峯堂のご主人は館長殺害時に、本物の『慶長の壺』で館長を殴っています。ご主人の近くには、本物と贋作(川北がつくったもの)があり、古畑はご主人が誤って本物の壺を掴んでしまったと推理します。
後に、ご主人は本物であることに気付いていたと語ります。ご主人にとっては、古いだけの『慶長の壺』よりも、自分をおとしめるために巨匠の川北が焼いた贋作の方が価値があったということのようです。
感想
六半うずくまるかなり寒い、というのが暗号のようになっていて面白いです。
この記事のまとめ
古畑任三郎『動機の鑑定』について、あらすじやトリックなどをご紹介しました。
項目 | 内容 |
---|---|
殺人の計画性 | あり |
偽装工作 | 強盗殺人を偽装 |
ミス | 死体の上のガラス |
動機 | 口封じ |
凶器 | 拳銃 |
トリック | ― |
古畑の罠 | ― |
番組情報
項目 | 内容 |
---|---|
脚本 | 三谷幸喜 |
監督 | 関口静夫 |
演出 | 河野圭太 |
長さ | 46分 |
放送 | 1996年 2月21日(水) |