『大金塊』は2023年元旦に放送された、相棒season21の第11話です。江戸川乱歩の同名小説をオマージュしたタイトルで、金塊を巡るミステリーと、政治家一家の人間ドラマなどが描かれ、右京と因縁のある政治家・袴田茂昭が再び登場します。この記事では、あらすじ、登場人物とキャスト、ネタバレなどをまとめた上で、感想や考察などのレビューをご紹介しています。
あらすじ
全国で相次ぐ美術館窃盗事件は、民間の探偵社「熟年探偵団」の活躍により解決された――しかし、捜査権のない彼らが貢献したことに警察上層部は憤慨し、建造物侵入の容疑で逮捕する。執行猶予付きの有罪判決を受けた熟年探偵団の3人だったが、趣味で探偵活動を続けることに悪びれる様子はない。そんな中、右京と因縁を持つ大物衆議院議員・袴田茂昭の屋敷に、「地獄の軽業師」と名乗る者から金塊の盗難予告状が届く。警察の介入を避けたい袴田は、後継者として育てる息子・茂斗を通じて、熟年探偵団に捜査を依頼する。熟年探偵団に興味を持った杉下右京と亀山薫は、依頼を受けて袴田家を訪れた探偵団に便乗し、屋敷へと足を踏み入れる。右京を忌み嫌う袴田は特命係を追い出そうとするが、熟年探偵団のブレーンである女子大生・大門寺寧々の機転により、特命係も捜査に同席することを許される。右京と美少女探偵が火花を散らす中、金塊を巡る事件は、袴田家の過去の因縁と権力者の思惑をはらみ、予想もしない方向へと転がっていく。

登場人物とキャスト
- 杉下右京(水谷豊)
特命係の警部。 - 亀山薫(寺脇康文)
特命係の巡査部長。右京の初代相棒で、人情深く熱血漢。サルウィンでの経験を経て、改めて警察官として復帰したばかり。 - 袴田茂昭(片岡孝太郎)
元与党政調会長の大物衆議院議員。右京とは過去の事件で因縁があり、逮捕を免れた曰く付きの人物。袴田家には婿入りしている。 - 袴田茂斗(森崎ウィン)
茂昭の息子で公設秘書。父の後継者として修行中であり、父を「先生」と呼んで尊敬している。 - 大門寺寧々(茅島みずき)
熟年探偵団のブレーン。慶明大学ミステリー研究会に所属する女子大生で、鋭い推理力と観察眼を持つ才媛。杉下右京の著書「亡霊たちの咆哮」のファン。 - 大門寺尚彦(斉木しげる)
熟年探偵団のメンバーであり、寧々の祖父。子供の頃の少年探偵団への憧れから、仲間と共に探偵活動を始めた。 - 串田純哉(佐藤B作)
熟年探偵団のメンバー。大門寺、野崎と共に探偵活動を楽しむ。 - 野崎長吉(井上肇)
熟年探偵団のメンバー。温和な性格で、探偵活動を通じて友情を育んでいる。 - 袴田虹子(いしのようこ)
茂昭の妻。代々続く政治家一家である袴田家の家格を重んじ、息子の茂斗の将来に並々ならぬ執着を見せている。
ネタバレ
大物衆議院議員・袴田茂昭の屋敷に届いた「地獄の軽業師」からの金塊盗難予告は、実は息子である茂斗が仕組んだ狂言でした。金塊はすでに偽物とすり替えられています。20年前に企業から受け取った賄賂が原資である金塊は、茂昭にとって清廉な政治家という理想と、現実の政治で手を汚してきた自分との乖離を象徴する「呪縛」となっていました。茂斗は、この呪縛から父を解放し、本来の清廉な志を取り戻させたいと願っていました。そのために茂斗は、祖父にあたる初代議員と、清廉潔白だった二代目議員のブロンズ像に暗示を仕掛けていました。初代の像は外見はブロンズだが中身はブロンズであり、外見だけを立派にしても中身が伴わないことへの皮肉。一方、二代目の像は外見はブロンズだが中身は純金であり、地味でも中身にこそ価値があるというメッセージが込められていたのです。金塊の偽物とブロンズ像に込められた暗示は、茂昭自身が目指すべき姿を自覚するための、探偵小説のようなギミックでした。右京は、内調が過去の袴田の殺人教唆に関する音声データを消去したことを突き止め、青木年男を通じてそのデータを取り戻します。これにより、袴田が過去に犯した罪が明らかになります。
結末
右京の追及により、袴田茂昭は自らの罪と息子の真意を悟り、政治家を引退する意思を表明。茂斗は父に一連の行動を謝罪し、二人は親子として互いの思いを理解し合うことになります。父の引退と謝罪を受け入れた茂斗は、二代目の像の銅メッキを削り、輝く純金を確認します。その頃、亀山薫は、袴田茂昭の粋な働きかけにより、嘱託職員ではなく正式な警察官として警視庁に再雇用されることが内定します。しかし、右京は袴田の引退という幕引きを許さず、青木から入手した音声データを基に、袴田茂昭を殺人教唆の罪で連行させます。右京の目的は、あくまで袴田に罪を償わせることでした。
感想と考察
「大金塊」は人間ドラマの深さと、複雑な二面性を持つキャラクター描写が際立ったエピソードでした。袴田茂昭は悪徳政治家というイメージから、理想と現実の狭間で苦悩する人間として深く掘り下げられていました。そして、金塊という象徴を通して、議員の「汚れ」と、息子が願う「理想」との対比も巧みに描かれていたと思います。元日スペシャルとしては珍しく殺人事件が起こらず、家族内の心理戦と暗示を巡るミステリーに終始した点には賛否があるかもしれませんが…犯罪捜査に留まらない人間ドラマとしての深みを感じられます。
茂斗が父を呪縛から解放しようとした動機は、愛情に満ちたものでした。そんな茂斗に亀山薫がかけた「理想で現実に立ち向かってくれ」という言葉には重みがありました。また、右京が袴田の引退を「綺麗ごと」として許さず、執念深く過去の罪を暴き逮捕に導いた展開は、相棒の根幹にある「悪は裁かれる」というテーマを改めて強く印象付けました。
余談
- 本作は2023年の1月1日に放送されました。輿水泰弘氏が脚本を手掛けたスペシャルエピソードです。
- 杉下右京が中学生の頃に書いた推理小説「亡霊たちの咆哮」が再び登場し、ミステリーマニアの間では伝説となっていることが語られました。「亡霊たちの咆哮」は『監禁』にも登場します。シーズン4第8話『監禁』についてはこちらにまとめています。
- シーズン20の最終話で内閣情報調査室へ異動した青木年男が一瞬再登場しました。
- 熟年探偵団の事務所には、東京都新宿区の「Staple Room 神楽坂」が使用されました。
作中の名言
- 「汚れなきゃ出世できないのが政界の現実かもしれないけど、理想で、現実に立ち向かってくれ。お父さんの果たせなかった夢を、君が引き継げばいい。」(亀山薫)
金塊を巡る事件の真相が明らかになり、父・茂昭を解放しようとした茂斗に対し、亀山が自身のサルウィンでの経験を重ねて語りかけた言葉。

