刑事コロンボS5E6「さらば提督(Last Salute to the Commodore)」は異色なエピソードです。物語は、造船会社オーナーの提督殺害から始まります。賛否両論を巻き起こしていますが、それこそが本作のアイデンティティであり、シリーズにおける一つの挑戦的な試みであったと言えます。
あらすじ(ネタバレ注意)
造船所社長のチャーリー・クレイは、創業者であり義父の死体を義父の自宅で発見します。現場には妻のブローチが落ちていたことから、彼は妻の犯行だと思い込みます。妻が罪を犯すと遺産が相続できなくなるため、チャーリーは義父の死を海難事故に偽装します。死体発見後、義父の自宅がある島から一度離れます。その後、ヨットクラブで潜水服を着て、再び義父の自宅へ向かいます。義父のヨットに死体を乗せ、自身は義父のふりをします。沖へ出る際に海運警備隊にみられることで、義父が生きているようにみせます。
コロンボは海難事故が偽装であることを見破り、チャーリーを疑います。しかし、チャーリーは真犯人によって殺されてしまいます。チャーリーの妻は酒浸りで、義父や夫が死んだときのことを憶えていませんでした。現場に、ブローチや口紅が落ちていたため、犯人はチャーリーの妻のようにみえます。しかしこれは、真犯人の偽装工作でした。真犯人は義父の甥であるスワニー・スワンソンでした。遺産目当てで義父を殺し、罪をチャーリーの妻になすりつけようとしました。スワニーは義父の懐中時計を壊して犯行時刻を偽ろうとしました。
この懐中時計の音をコロンボに聞かされたとき、「まさか」と答えます。時計が壊れていることを自ら証言したスワニーは、犯人しか知らないことを口走ったことになります。義父は若い女性との結婚を計画していました。遺産はその女性に譲るつもりでしたが、女性が拒んだため、ほとんどを寄付するつもりでした。つまり、チャーリーもスワニーも遺産を受け取ることはできませんでした。
登場人物とキャスト
- コロンボ(ピーター・フォーク)
ロサンゼルス市警殺人課の警部補。今作では禁煙に挑戦中ということもあり、いつも以上に落ち着きがなく、容疑者に異常なほど接近するなどの奇妙な行動が目立ちます。 - チャーリー・クレイ(ロバート・ヴォーン)
提督の娘婿で、スワンソン造船所の社長。冷徹でスマートな経営者であり、物語中盤まではコロンボの最大の宿敵として、遺体遺棄とアリバイ工作を完璧にこなします。 - オーティス・スワンソン(ジョン・デナー)
「提督」の異名を持つ造船所のオーナー。古き良き船乗りの精神を重んじ、金儲けに走る親族を嫌って会社の身売りを画策したことで、命を狙われることになります。 - ジョアナ・クレイ(ダイアン・ベイカー)
提督の娘でチャーリーの妻。重度のアルコール依存症で、事件当夜の記憶も曖昧。夫のチャーリーからは犯人だと思い込まれ、コロンボからも疑いの目を向けられます。 - スワニー・スワンソン(フレッド・ドレイパー)
提督の甥。定職を持たず叔父の財産を頼りに暮らしており、親族が集まる場でもどこか軽薄な態度を崩さない男です。 - シオドア・「マック」・アルビンスキー(デニス・デューガン)
コロンボに憧れて殺人課へ志願した若手刑事。エリート風の風貌ながら、コロンボの独特な捜査スタイルに振り回されつつ、懸命にサポートを務めます。 - リサ・キング(スーザン・フォスター)
造船所で働く若き設計士。提督から全幅の信頼を寄せられており、彼女の存在が事件の意外な真相を解き明かす鍵となります。
トリック解説
チャーリーは義父の死体を海難事故にみせかけて始末します。甥のスワニーはチャーリーの妻に罪を着せようとします。
海難事故偽装
既に息絶えた義父の死体を現場から海へ運びます。風にあおられた帆にぶつかり海に落ちたようにみせます。義父の自宅は入り江に浮かぶ島にあります。島には橋がかかっているため、車で行き来できます。義父の死体が発見されたのは、島にある自宅です。
- チャーリーは義父の死体発見後、一度島を出ます。この時、島のゲートにいる警備員に時間を尋ねます。
- ヨットクラブから島まで泳いで向かいます。誰にも見られないようにするため、潜水します。
- 義父のヨットで夜中に沖へと出航します。義父のように振舞ったうえで海運警備隊に目撃され、義父が生きているようにみせます。
- ヨットは乗り捨て、泳いで陸地に戻ります。
- 帆にぶつかって海に落ちたという筋書きをもっともらしくするため、帆に血痕を残します。
罪のなすりつけ
甥のスワニーはおじを殺し、罪を娘(チャーリーの妻)になすりつけようとします。
ブローチと口紅
真犯人のスワニーは酔って前後不覚になったチャーリーの妻からブローチなどを盗みます。このブローチを現場に残し、酔って殺したようにみせます。
この偽装工作に引っ掛かったチャーリーは、妻が義父を殺したと勘違いします。
時計の破壊
おじの懐中時計を進めたのち破壊し、犯行時刻を捏造します。
チャーリー殺害
犯行がばれそうになったため、スワニーはチャーリーを殺します。チャーリー殺害の詳細は不明です。犯人はスワニーです。
犯人のミス
スワニーの偽装工作はうまくいきましたが、騙されたのはチャーリーでした。スワニーにとっては、これが大きなミスだったと言えます。
ちぐはぐな証拠
海難事故とは思えない証拠などです。
死体の水
検死の結果、被害者の肺には水が入っていないことが明らかになります。帆にぶつかって海に落ちたのであれば肺に水が入っているはずです。
帆にぶつかったあとしばらくヨットの上にいて、波にさらわれたとも考えられます。しかし、事件の日、波は穏やかでした。
凶器のロープ止め
チャーリーは義父の死体のそばにロープ止めが落ちていたため、それを拾って指紋を拭き取ります。そして、元の場所に戻します。
しかし、他のロープ止めはホコリを被っていたため、ひとつだけ綺麗な状況となります。
懐中時計の時刻
壊れた懐中時計が示した時刻は夜12:42です。チャーリーが島のゲートを出たのは12:46です。4分で義父の自宅からゲートに向かうことはできません。つまり、時計を壊したのはチャーリーではありません。
いつもと違う行動
チャーリーは死体遺棄のためいつもと違う行動をとります。
時間の確認
島のガードマンに時間を確認します。時計を身に付けているのに、わざわざ時間を確認するのは不自然です。
コロンボは、チャーリーを愛車にのせた時、腕時計を確認しています。時間がずれていないことも確かめています。
無意味な犯行
チャーリーもスワニーも、遺産目当てで犯行に及びます。しかし、遺産はほとんど寄付される予定でした。
SAILS
義父は、亡くなる直前、ヨットにS、A、I、L、S、.(ピリオド)の文字をペイントしようとしていました。SAILS(帆の複数形)のようですがピリオドが付きます。これは、「LISA S.」であり、造船所の技術者である女性との結婚を意味していました。
LISAはリサという女性の名前です。Sは義父の苗字スワニーの頭文字です。ピリオドは省略を意味します。
コロンボの罠
懐中時計の音だけを容疑者に聞かせ反応をうかがいます。
容疑者の反応
チャーリーの妻は「パパの時計」、弁護士は「ほう、そうかい」、造船所の所長は「それがなんだ」、スワニーは「まさか」と答えます。スワニーだけ、懐中時計が壊れていることを知っているような口振りです。
感想
座禅する女性に「どうしましたか?」と尋ねるコロンボが面白いです。演出面では、コロンボが容疑者に過剰に密着するなどの奇妙な振る舞いが目立ち、視聴者の間ではキャラクター崩壊と捉える否定派と、シュールな笑いとして楽しむ肯定派で評価が真っ二つに分かれています。もともとシリーズの最終回として想定されていたため、相棒の刑事たちとの掛け合いや、ラストに手漕ぎボートで去っていく情緒的な演出など、お別れの雰囲気が色濃く漂っています。
本作の最大の特徴は、やはり、シリーズの代名詞である「倒叙(最初から犯人がわかっている)」形式を逆手に取った点にあります。視聴者は「チャーリーが犯人だ」と思い込まされて物語を追いますが、中盤でそのチャーリー自身が殺害されるという「どんでん返し」が用意されています。これは、視聴者の「コロンボならこう進むはずだ」という先入観を利用した高度な叙述トリックとも言えます。しかし、後半の解決編がいわゆる「容疑者全員を一部屋に集めて犯人を指摘する」というアガサ・クリスティ的な古典スタイルに変化するため、従来のコロンボらしい「じわじわと追い詰める心理戦」を期待すると、やや肩透かしを食う構造になっています。
なお、「Last Salute to the Commodore」は直訳すると「提督に最後の敬礼」となり、「さらば提督」は原題に忠実な意訳といえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 殺人の計画性 | ? |
| 偽装工作 | 海難事故を偽装 |
| ミス | 肺の水 |
| 動機 | 遺産 |
| 凶器 | ロープ止め |
| トリック | 潜水 |
| コロンボの罠 | 懐中時計 |
口コミ分析
「さらば提督」の口コミを画像にまとめました。
海外口コミ
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