『いわんや悪人をや(前篇)』および『いわんや悪人をや~解き放たれる謎!!(後篇)』は相棒season16の第13話と第14話で、記念すべき放送300回を祝う前後編スペシャルとして放送されました。かつて特命係と因縁のあった元法務大臣の瀬戸内米蔵、元衆議院議員の片山雛子、尼僧の蓮妙といった人気キャラクターが再登場します。瀬戸内米蔵の仮出所から幕を開け、寺の墓地で発見された白骨遺体と、広報課長の社美彌子を巡る長年の謎が交錯。右京と亘の特命係は、複雑に絡み合う人間関係と思惑の先に隠された真実を追い詰めます。壮大なスケールで描かれる人間ドラマと、予想を裏切る展開がみどころの記念回となっています。この記事では、あらすじ、登場人物とキャスト、ネタバレ、感想、余談などをまとめています。
あらすじ
横領罪で服役していた元法務大臣の瀬戸内米蔵が仮出所し、身元引受人の尼僧・蓮妙と共に実家の寺に戻る。そこへ、元衆議院議員の片山雛子が訪れ、突然の出家を願い出る。瀬戸内が寺の手入れをしていたところ、檀家総代の息子・常盤臣吾と共に墓地で白骨遺体を発見。連絡を受けた杉下右京と冠城亘の特命係が捜査を開始するが、遺体の身元は不明のまま。そんな中、広報課長の社美彌子の元に届いた謎のロシア語の手紙が、遺体の身元と彼女の過去に関わる重要な情報をもたらす。一見無関係に見えるそれぞれの運命が、やがて一本の線で結ばれ、特命係は社美彌子の過去にまつわる深い闇へと足を踏み入れていくことになる。

登場人物とキャスト
- 杉下右京(水谷豊)
警視庁特命係の警部。 - 冠城亘(反町隆史)
右京の相棒。 - 瀬戸内米蔵(津川雅彦)
元法務大臣。横領罪で服役後、仮出所した僧侶。特命係とは旧知の仲。 - 片山雛子(木村佳乃)
元衆議院議員。政界を退いた後、瀬戸内米蔵の寺で出家を願い出る。 - 蓮妙(高橋惠子)
尼僧であり、瀬戸内米蔵の兄弟弟子。彼の身元引受人となる。 - 常盤臣吾(矢野聖人)
徹正院の檀家総代の息子。寺の手入れ中に白骨遺体を発見する。海外放浪の経験を持つフリーター。 - 社美彌子(仲間由紀恵)
警視庁広報課長。元ロシア人スパイ・ヤロポロクとの関係が常に疑惑の対象となっている。 - 風間楓子(芦名星)
週刊フォトスの記者。瀬戸内や片山雛子の動向を追い、特命係とも関わる。 - 伊丹憲一(川原和久)
警視庁捜査一課の刑事。特命係とは時に反発しながらも協力する。 - 芹沢慶二(山中崇史)
警視庁捜査一課の刑事。伊丹の部下。 - 角田六郎(山西惇)
警視庁組織犯罪対策部の課長。特命係の部屋によく現れる。 - 甲斐峯秋(石坂浩二)
警察庁長官官房付。冠城亘の父親であり、社美彌子の娘・マリアの祖父。 - 日下部彌彦(榎木孝明)
法務省事務次官。社美彌子を監視するよう指示を出していた。 - 大河内春樹(神保悟志)
警視庁監察官。厳格な性格で知られる。 - 坊谷一樹(蔵原健)
公安調査庁の職員。社美彌子の周辺を探っていた。 - ヤロポロク・アレンスキー(ユーリー・B・ブラーフ)
元ロシア人スパイ。社美彌子の娘マリアの父親とされている。
ネタバレ
瀬戸内米蔵の寺で発見された白骨遺体は、公安調査庁の職員、坊谷一樹であることが判明します。坊谷は法務省事務次官の日下部彌彦の指示で、社美彌子の周辺を嗅ぎ回っていました。社美彌子の元には、かつてアメリカに亡命したはずの元ロシア人スパイ、ヤロポロク・アレンスキーからのものとされる手紙が届き、遺体の身元が示唆されていましたが…、その手紙の筆跡はヤロポロク本人のものではなく、日本国内からの郵送であることが明らかになります。特命係の捜査により、遺体の第一発見者である常盤臣吾が怪しい人物として浮上。常盤は過去に海外で傭兵として活動していた経験があり、美彌子の娘の父親であるヤロポロクを巡る事件にも関与していました。当初、常盤は「バーニー・オルコット」と名乗る外国人から遺体の発掘を依頼されたと証言しますが、その人物がヤロポロクであると認めることになります。しかし、ヤロポロクはアメリカに亡命したはずであり、日本にいることはあり得ないという矛盾が浮上します。
常盤臣吾は、美彌子の家宅捜索で発見された、ヤロポロクが所持していた美彌子の写真立てを前に、ついに真実を語り始めます。 常盤は、社美彌子につきまとっていた坊谷一樹を「美彌子にとって良くない男」と判断し、個人的な感情から殺害して墓地に埋めたことを認めます。さらに、ヤロポロク・アレンスキー本人も殺害したことも自白します。ヤロポロクはロシアを裏切った裏切り者であり、ロシア側から暗殺の依頼を受けて仕事として遂行したと常盤は証言しました。ヤロポロクを殺害した際に見つけた写真立てによって美彌子に一目惚れした常盤は、彼女のために坊谷を殺したのです。
結末
右京は、アメリカに亡命したはずのヤロポロクが日本で殺害されたことが公になると、米露関係に大きな問題が生じるため、アメリカ側がヤロポロクの遺体を秘密裏に処理し、似た人物を住まわせて亡命を偽装したと推理します。結果として、ヤロポロクの死は米露双方の国家間の思惑の中で葬られた形となりました。美彌子は常盤の身勝手な愛情と残酷な行動に感情を爆発させ、涙を流します。事件後、片山雛子は瀬戸内米蔵の寺で剃髪し、「妙春」として出家を果たしますが、その裏では次期総選挙への出馬の意向を表明し、再び政界への復帰を目指す野心をのぞかせます。瀬戸内は常盤の愚かな行いを戒めつつも、更生を促す言葉をかけるのでした。
感想と考察
300回記念スペシャル前後編は、まさに豪華絢爛なキャスティングと、シリーズ全体を巻き込む壮大なスケールでした。津川雅彦さん演じる瀬戸内米蔵、木村佳乃さん演じる片山雛子、高橋惠子さん演じる蓮妙といった、懐かしい顔ぶれの再登場が嬉しいです。特に、片山雛子の丸刈り姿は、特殊メイクとはいえそのインパクトは絶大で、彼女の持つ野心と、仏門に入ったことによる新たな戦略を視覚的に強烈に印象付けました。
本作の大きな軸となったのは、社美彌子と元スパイ・ヤロポロクを巡る謎の決着です。シーズン15から引っ張られてきたこの謎が 、ついに明かされる展開には多くの期待が寄せられました。社美彌子が流した一筋の涙は、彼女がこれまで押し殺してきた感情を物語り、その禁断の愛の結末があまりにも残酷であったことを痛感させられました。仲間由紀恵さんの演技が光る、感動的なシーンでした。一方で、犯人である常盤臣吾の動機については、「唐突感がある」「ヤロポロクの謎の結末がやや物足りない」という声もあったようです。社美彌子への歪んだ愛情というサイコパス的な要素は彼のキャラクターに深みを与えましたが、ヤロポロクの死が国家間の裏取引によって処理されたという結末は、長年の伏線回収としてはややあっさりした印象を受けたのかもしれません。しかし、善悪の境界線が曖昧な人間心理を描き出す「いわんや悪人をや」というタイトルに込められたメッセージは、親鸞の教えを引用することで、登場人物たちの行動や選択に哲学的な深みを与えていたとように思います。矢野聖人さんの、どこか危うく、複雑な常盤臣吾というキャラクターの熱演も光っていました。多くの要素を詰め込みながらも、最後まで目が離せない、重厚な前後編スペシャルでした。
余談
- 「いわんや悪人をや(前編)」は2018年1月24日に放送され、このときの視聴率は15.6%でした。「いわんや悪人をや~解き放たれる謎!!(後編)」は2018年1月31日に放送され、視聴率は17.3%を記録しました。後編の視聴率はシーズン16の最高視聴率となりました。
- 撮影は多岐にわたり、千葉中央刑務所のシーンは北千葉広域水道企業団(北千葉浄水場)で、徹正院のシーンは開光院で、捜査本部は東映東京撮影所で撮影されました。また、片山雛子が電話で抗議した場所は公園通り(新宿)の歩道橋、冠城と美彌子が話した店はLa Goccia Tokyo、美彌子がハリーから住所を受け取った店は(株)そば庄(神谷町)など、実在の店舗や公園、道路が多数使用されています。
- 片山雛子を演じた木村佳乃さんの丸刈り姿は、実際には3時間かけた特殊メイクによるものでした。その完成度の高さは、視聴者から「本当に丸刈りにしたようだ」と称賛されました。
- 前編では、初代相棒である亀山薫(寺脇康文)と、故・小野田公顕官房長(岸部一徳)が回想シーンで登場しました。エンディングのクレジットに寺脇康文さんの名前が流れたとき、ネット上では歓喜の声が上がったといわれています。
- 後編では、青木年男(浅利陽介)がビデオメッセージという形で登場しました。
- 津川雅彦さんは本作撮影当時、肺炎で入院されており、顔色が優れないように見え、滑舌にも多少難があったと指摘されています。残念ながら、放送の約7ヶ月後の2018年8月4日に亡くなられました。
- 蓮妙(高橋惠子)は、物語の中で真っ赤なフェアレディZを運転する姿を見せ、その意外性が話題となりました。
作中の名言
- 「善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」(親鸞聖人 / 瀬戸内米蔵)
浄土真宗の宗祖・親鸞の言葉で、「善人でさえ救われるのだから、悪人はなおさら救われる」という意味。物語のテーマを象徴する言葉として、瀬戸内米蔵が口にしました。 - 「勝手に遺体を埋めるのは立派な犯罪」(杉下右京)
白骨遺体発見の現場で、常盤臣吾が犯行を匂わせる行動を取った際の右京の冷静な言葉。 - 「お前が何人殺しているか知らないけれど、警察にバレてるのは1人だけだから死刑にはならない」(瀬戸内米蔵)
常盤臣吾との面会で、彼の犯した罪の現実を突きつけながらも、僧侶として更生を促すような、複雑な感情を込めて語られた言葉。

