新・刑事コロンボS8E2「狂ったシナリオ(Murder, Smoke and Shadows)」は映画監督のアレックス・ブレディ(フィッシャー・スティーヴンス)が犯人です。本作は「映画監督」という、光と影で世界を構築するプロが犯人であることが最大の特徴です。アレックスが仕掛けるトリックやアリバイ工作は、すべて「演出」に基づいています。しかし、コロンボはあえてその土俵に乗り、より優れた「演出」を被せることで犯人を追い詰めます。これは単なる証拠探しの物語ではなく、二人の「演出家」による知略のぶつかり合いとして構造化されています。犯人が自らの才能に溺れ、細かな物証の処理を疎かにしたことが、警察官の地道な捜査に屈するという対比が描かれています。
あらすじ
映画監督のアレックスは、昔、あるアマチュア映画の撮影中に幼馴染の妹を死なせてしまいましたが、そのことを隠し続けていました。しかし、一緒に撮影していたもう一人の幼馴染の死をきっかけに、真相が発覚。幼馴染は、映画監督として成功しているアレックスを脅します。アレックスは、幼馴染を感電死させて殺害し、身元がわからないようにし、死体を海岸の砂浜に捨てます。コロンボは、被害者の足取りを詳しく調べ、さらに、アレックスの秘書を使った罠で追い込みます。
登場人物とキャスト
- コロンボ(ピーター・フォーク)
ロサンゼルス市警の警部補。撮影スタジオに漂う不自然な「演出」の違和感を鋭く察知し、若き天才に挑む。 - アレックス・ブレイディ(フィッシャー・スティーブンス)
弱冠25歳にしてヒット作を連発する映画界の寵児。自身の野望と地位を守るためなら、旧友をも冷酷に排除するエゴイスト。 - レニー・フィッシャー(ジェフ・ペリー)
アレックスの旧友。亡き妹の死の真相を知り、復讐のために現れるが、アレックスの巧妙な罠に落ちてしまう。 - ルース・ジャニガン(モリー・ヘーガン)
アレックスの映画に出演する女優。アレックスと交際しているが、彼の身勝手な振る舞いに次第に不信感を募らせる。 - ローズ・ウォーカー(ナン・マーティン)
アレックスのベテラン秘書。冷徹な主人に対し皮肉な態度を見せるが、事件の重要な鍵を握ることになる。 - ダニエル・モレスコ(スティーブン・ヒル)
映画スタジオの重鎮。アレックスの才能を高く評価しているが、ビジネスには厳しい一面を持つ。
事件の概要
犯人のアレックス・ブレディは若手映画監督。最終的に、付き合っていた女優に見放されるだけでなく、新作映画も公開できないような状況に追い込まれます。被害者は犯人の学生時代の友人(幼馴染)です。学生時代、妹を事故で無くしています。妹は、犯人が監督を務める映画撮影の現場へ向かっている最中に事故を起こしたとされています。本当は、映画撮影のスタントに失敗し瀕死の重傷を負った妹を、犯人のアレックスが見捨て、事故に仕立て上げています。なおアレックスが事故を隠したのは、映画監督としての道が切り開かれていたためです。
撮影中の事故が起きた時、アレックス以外にもう一人、幼馴染がカメラマンとして参加していました。このカメラマンは、事故の一部始終を撮影し、そのフィルムを残していました。この唯一の目撃者が、病気で亡くなる間際に、幼馴染にフィルムを渡しました。
フィルムを受け取った幼馴染は、妹の死の真相を知ります。激憤した彼は、フィルムをメディアに送り付け、アレックスを失墜させようとします。そしてアレックスは、自己防衛のため、幼馴染の殺害を決意します。
コロンボは、被害者としばらく会っていないと嘘をつく犯人に対し、被害者の本、ベルト、はがれ落ちた靴底などを証拠に、じわりじわりと犯人を追い込みます。そして、アルバムに挟まれたチケット、秘書の脅迫を使った罠で、完全に追い込みます。
結末
犯人の秘書があるレストランで、被害者からの電話を憶えいていると嘘をつき、犯人を脅します。そして、犯人は秘書の要求をのみます。秘書はコロンボの仕掛け人で、犯人が秘書の要求をのんだということは、自供したということである、とコロンボに追い詰められます。
トリック解説
犯人は撮影所で感電死させた被害者を、身元がわからないようにしてから、海岸に捨てます。
感電死
犯人は被害者を撮影所で逃げ回らせ、高電圧のかかった柵に誘導します。このとき散水車で地面を濡らすことで、電流を流れやすくします。
身元隠蔽
被害者を感電死させた後、顔をつぶし、ポケットの中身を抜き取ります。被害者は、柵を掴んで亡くなったため、手の指紋はありません。
犯人の罠
徐々に追い込まれ始めた犯人は、ある役者を使ってコロンボを騙そうとします。
コロンボがレストランで食事をしていると、すぐ近くでおしゃべりをする女性2人のうち1人が、被害者の元恋人であったと言い始めます。詳しく話を聞こうとするコロンボを、警備員らしき人物が止めます。ふたりの女性も警備員の男も、実は犯人の仕込みです。
なお、アレックスは、警備員を演じた男を使って、恋人が他の男とくっつくように仕込んだりもしていました。
犯人のミス
コロンボが被害者の身元を明らかにし、エリオットを疑う証拠です。
ちぐはぐな証拠
矛盾するような状況や証拠です。
- 犯人が被害者と会ったとき、クリームソーダを2つ作りました。コロンボが犯人を尋ねた時も、それが残っていました。このことが、犯人が誰かと会っていたという状況証拠になります。
- 天気予報は雨でしたが、犯人は、わざわざ散水車を頼みました。散水車の依頼は突然のことであり、これまでに例のない出来事でした。
- コロンボに嘘の情報を流した女性ふたりは、看護婦と花嫁の付き添いの恰好をしていました。しかし、そのような衣装が必要なシーンは一切撮影されていませんでした。
犯行の証拠
被害者の身元や、犯人と被害者が会っていたことを明らかにする証拠です。
- 犯人の著書が死体発見現場付近に落ちていました。本には、犯人につながる直通番号がメモされており、これを根拠に、コロンボはアレックスを尋ねます。
- 被害者はベルトにトラベラーズチェックを隠していました。このトラベラーズチェックには、持ち主を特定する番号が書かれていました。
- 被害者の靴のかかとが、感電死した場所に落ちていました。
- あるタクシーの運転手が、被害者のことを憶えていました。この運転手が、被害者を撮影所(正確にはツアーセンター)まで乗せたと証言します。(それでも犯人は被害者と会っていないと言いはります)
- 被害者が犯人にフィルムをみせた後、彼は、しばらく待たされます。このとき被害者は学生時代のアルバムを開き、そこに、ツアーチケットを挟んでいました。
- 被害者がカメラマンだった幼馴染から受け取ったフィルムは16mmで、そのフィルムが被害者の自宅に残っていました(被害者が犯人にみせたフィルムは、32mmで、元のフィルムを焼き増ししたもの)。
コロンボの罠
コロンボは決定的な証拠を掴むため、犯人の秘書に、あるレストランで、被害者からの電話を憶えているという嘘をつかせます。秘書は、電話の記録が紛失していると話し、犯人をさらに動揺させます。
自供
犯人は秘書の横暴な要求(客船で世界一周)を承諾します。つまり、被害者との接触を隠さなけらばならないような後ろめたいことがあるということになります。
証人
犯人は、秘書の証言は信用に値しないと反論します。しかし、レストランには、給仕に変装した男性と女性の刑事が1人ずつ、犯人の元恋人、そしてコロンボもその場にいました。
感想
撮影所の闇を覗いてしまったような気分です。かつての友人が、自分の成功を脅かす「過去の証拠」を持って現れた時、天才監督アレックスが選んだのは、最先端の特撮技術を駆使した殺人でした。
夜のスタジオーー雨が降る予報でもないのに散水車が道を濡らし、高圧電流が流れる鉄柵。そこへ友人を追い詰め、一瞬で「事故」を演出したのです。
しかし、コロンボは犯人の「演出」を見逃しませんでした。最後はレストランという舞台で、犯人が仕掛けた芝居をコロンボがそっくりそのまま、より大きな規模でやり返したのです。スポットライトが当たり、証人たちが次々と姿を現す中、犯人は自分の「狂ったシナリオ」が破綻したことを思い知らされました。
本作は新シリーズの中でも特に評価が分かれる一作として知られています。否定的な意見としては、犯人のミスがあまりにも多く 、コロンボが幸運に助けられすぎているという点や、ラストの演出が派手すぎて従来のコロンボの作風から逸脱しているという声があります。一方で、映画スタジオを舞台にした幻想的な雰囲気や、池田秀一氏による吹き替えの演技、そして若き天才監督がどん底に落とされる爽快な展開を支持するファンも多く、エンターテインメント作品としての完成度は高いと評されています。
犯行後、犯人がコロンボに罠を張ります。原題は「Murder, Smoke and Shadows」(殺人、煙と影)です。「狂ったシナリオ」とは異なったタイトルです。最後にドラマの内容を、殺人の計画性、偽装工作、犯人のミス、動機、凶器、トリック、コロンボの罠で簡単にまとめます。殺人を決意してから実行するまで、多少の時間はありましたが、計画性はなしとしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 殺人の計画性 | なし |
| 偽装工作 | 被疑者の身元を隠す |
| ミス | とれた靴底 |
| 動機 | 過去に犯した罪 |
| 凶器 | (感電) |
| トリック | ― |
| コロンボの罠 | 秘書の脅迫 |
余談
- 犯人アレックス・ブレイディのモデルは、初期の名作「構想の死角」を監督したスティーヴン・スピルバーグであると言われています。撮影機材へのこだわりや私室のガジェットなどがそれを彷彿とさせます。
- アレックス役のフィッシャー・スティーブンスは、1989年当時25歳であり、コロンボシリーズ史上最年少の犯人記録となりました。
- ラストシーンでコロンボがサーカスの団長(リングマスター)のような赤い衣装に変身する演出は、アレックスの崩壊した精神状態が見せている幻覚であると解釈されることが多い、非常に珍しい表現です。
- 本作にはコロンボの愛犬「ドッグ」が登場しますが、新シリーズの開始に伴い、実際には別の犬が演じています。

