詩的私的ジャック【あらすじ・ネタバレ解説・感想・考察】

森博嗣S&Mシリーズ4作目「詩的私的ジャック(Jack the Poetical Private)」のあらすじ、真相、トリック解説、感想、考察です。女子大のログハウスで女子大生の死体が発見されます。

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あらすじ

那古野市内のS女子大で女子大生が死体が発見されます。死体は大学敷地内のログハウスで見つかり、密室でした。
その後、那古野市内のT大学で女子大生の死体がみつかり、現場は同じく密室でした。

二つの事件の被害者が下着だけを身に付けていたこと、最初の被害者の腹部にはI、二番目の被害者にはNの傷跡が残されていたことなどから、警察や萌絵は同一犯による連続密室殺人として捜査を進めます。

二つの密室は犀川と萌絵の推理により解決します。しかし、密室を作り出した理由は謎のままとなり、捜査は停滞。警察はN大出身のロック歌手、結城稔(ゆうき・みのる)を疑い、彼を尾行します。
稔を尾行している最中、最初の、被害者の発見者である杉東千佳(すぎとう・ちか)がN大の実験室で死んでいるのがみつかります。さらに、同じ現場で、結城稔の死体も発見されます。

警察は稔のマネージャー篠崎敏治(しのざき・としはる)に嫌疑をかけますが、N大の事件の犯行時刻、彼には西之園萌絵と一緒にいたという完璧なアリバイがありました。

登場人物

事件の関係者です。

  • 結城稔(ゆうきみのる)
    大人気ロック歌手。N大建築学科の元学生(作中で退学)
  • 篠崎敏治(しのざきとしはる)
    稔の友人であり、マネージャーのような存在。文学部の大学院生。萌絵同様、ミステリー研に所属
  • 結城寛(ゆうきひろし)
    稔の兄。博士課程の大学院生。ステリー研OB
  • 杉東千佳(すぎとうちか)
    S女子大の助手。寛の妻。別姓。犀川や萌絵の知り合い

最初の被害者の名前は前川聡美(まえかわさとみ)、二番目の被害者は相田素子(あいだもとこ)です。

シリーズを通して登場するキャラクターは以下の通りです。なお、三浦、鵜飼、吉村などの刑事も登場します。

  • 犀川創平
    N大助教授。34歳。S女子大で講義をし、杉東と知り合う
  • 西之園萌絵
    建築学科の三年生。大学院への進学を決意する
  • 牧野洋子
    建築学科の三年生。三つ目の事件に巻き込まれる
  • 金子勇二
    建築学科の三年生。牧野に「不良」呼ばわりされている(第2章第二の密室3、ノベルス版P120)
  • 国枝桃子
    N大助手。犀川の4つ下(第3章解決のあとの未解決3、ノベルス版P78)、30歳
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事件のまとめ

「詩的私的ジャック」で起きた事件の概要と謎を整理します。この事件では、三つの密室が登場します。密室トリックはあっさり明らかになりますが、密室にした理由は謎のままとなります

  • 最初の密室
    S女子大ログハウスの密室です。密室は、ドアの左にあるプレートを外し、室内の閂を外からスライドさせることで作られていました。プレートを外すと小さな穴があり、そこから閂を動かすことができます。穴は犯人があけたものです(扉ではなく、壁に閂が取り付けられていたため、ドア左のプレートから鍵をかけることができました)
  • 二番目の密室
    T大の密室です。つっかい棒はフェイクです。本当は、扉が瞬間接着剤で固定されていました
  • 三番目の密室
    N大の密室です。現場では材料の実験が行われおり、まだ固まっていないコンクリートがたくさんありました。建物の入口には二人の女子大生がおり、彼女達は誰も通っていないと証言します。死体発見現場の実験室には、直接外に出ることができる扉がありますが、鍵がかかっていました。以上のことから、密室であったことが確定します。のちに、磁石、糸、サーボモーター、バッテリーなどを使った密室であると推理され、コンクリートの中から、それを実現可能な機械がみつかります

疑われていた結城稔は殺されます。稔の次に疑われることになった篠崎敏治には、三番目の密室に完璧なアリバイがありました。密室にした理由どころか、そもそも真犯人も謎のままとなります。

三番目の密室で妻の死体の第一発見者となった結城寛は、直前までドライブしていたと証言します。この車を警察が尾行していたため、寛には犯行時刻のアリバイがあることになります(警察は稔だと思って車を尾行していました)。

最初の事件があった日、稔と篠崎は被害者となった前川と相田と一緒でした。もうひとり誰かがいたようですが、篠崎はその人物を明かしません。

その他、現場には、不可解な状況が残っていました。

  • 指紋
    最初の事件でみつかった被害者の車は、車内の指紋がほとんど奇麗に拭き取られていました。なぜ、ほぼすべてを拭き取る必要があったのか謎です
  • 衣服
    死体は全て下着だけを身に付けていました。衣服を持ち去った理由が謎です
  • 腹部の傷
    死体の腹部にはカッターナイフで付けたような傷が残されていました。傷は、最初の被害者から順にI、N、A、Mと付けられているようです
  • コンクリートの紛失
    第三の事件現場にあった長方形のコンクリートが紛失します。コンクリートは駐車場の車止めになっていましたが、紛失した理由は不明です。このコンクリートは、密室トリックに使われた機械が入っているコンクリート、とは別です
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ネタバレ

犯人は結城寛です。ただし最初の事件だけは杉東千佳が犯人です。杉東が女子大生を殺し、結城寛が死体を処理していました。

杉東はS女子大で杉東と前川は口論となり、前川を殺してしまいます。その後すぐに、杉東は女子大生を殺してしまったことを夫の寛に打ち明けています。事情を知った寛は、妻と稔の殺害を決意し、最初の密室を作り上げることになります。杉東は稔に言われ服を交換し、その後、最初の被害者である前川の車で職場のS女子大へ送ってもらっています。

杉東は最初の事件の日、稔、篠崎、前川、相田と一緒でした。杉東は稔から金を受け取ったため、その礼を言いに稔のマンションを訪れていました。なお、金を出したのは篠崎です。篠崎は結城寛を愛していました。篠崎は寛をかばっています。詩的私的ジャックの作詞は寛ですが、篠崎が書いたと嘘をついています。

二番目の被害者相田は、前川と直前まで一緒でした。事件の容疑者に勘付いた前川は寛に連絡をとり、脅そうとします。しかし、寛によって殺され、密室計画に利用されます。

三つ目の事件で死んだ稔と杉東は服を着ていませんでした。
稔の服は寛が着ています。寛は、実験室にジョギングをするような軽装かつ裸足できています。
着ていた服は実験室の油のしみ込んだボロ(雑巾)にしています。杉東の服もボロにしています。しかし、女性ものの靴だけは処分できず、長方形のコンクリートに入れました。

殺人を犯した妻の杉東を寛は汚点だと感じ、その妻を殺してまっさらにするつもりでした。

新しいノートに何かを書き始める。少し気に入らないことを見つけると、そのページの存在さえ許せなくなって、奇麗に切り取ってしまう。
そんな意志があったはずだ。

森博嗣「詩的私的ジャック」ノベルスP315抜粋

寛が最初と二番目を密室にしたのは、杉東と稔殺害も密室殺人にみせかけるためです。三番目の密室で登場した機械は、実は使われていません。

警察に尾行されていたのは結城稔です。寛は自分が変装していたと嘘をつくことで、アリバイを作っています。アリバイを完全に成立させるために、杉東と稔の殺害現場も密室にみせる必要があります。密室であれば、寛が杉東を発見するよりも前に犯行が行われたようにみせることができるからです。密室偽装が成功すれば、直前までドライブしていたという寛のアリバイは完全に成立し、容疑者から外れます。つまり、連続密室殺人であるという先入観で三番目の事件も密室だと考えてしまう、というトリックです。

拭き取られた車内の指紋、持ち去られた衣服、腹部の傷などの真相は以下の通りです。

  • 指紋が拭き取られた理由
    指紋を残したのは杉東ですが、拭き取ったのは寛です。寛は杉東が車内のどこに指紋を残したかわからなかったため、全体的に拭き取りました
  • 衣服がない理由
    最初の被害者は、稔もしくは篠崎の服を着ていました。犯人の寛は死体と二人を結びつける決定的な証拠を隠すため、衣服を持ち去りました(寛の計画では、稔に警察の尾行をつける必要がありました。寛は匂わせる程度にするため、服を持ち帰っています)
  • 腹部の傷
    Iは1、Nは2、Aは4、Mは3です。三番目に発見された杉東には4、稔には3の傷が付けられていました。稔の次に杉東が殺されたようにみえますが、実際のところ先に殺されたのは杉東です。犯人は、稔が最後に殺されたことを隠すため、このような傷を残していました
  • コンクリートが紛失した理由
    コンクリートの中には杉東の靴が入っていました。機械を使って外から実験室の鍵をかけることができる、つまり、犯行後に誰にもバレずに外にでることができるのに、靴を持ち出さなかったというのは、おかしな状況です。靴が残っているという状況から、密室はフェイクだったと気付かれないようにするため、寛は靴を隠しました(靴は萌絵が学祭で購入しようとしていた靴です。靴を購入したのは杉東でした)
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考察

犀川は、萌絵に火のついた煙草をくわえさせています。煙草は吸わないと火が非常につきにくいので、火のついた煙草を渡したということは、フィルターで間接キスをしているはずです。

犀川の専門についてですが、犀川は杉東に次の様に紹介されています。犀川が数値解析(複雑な数式をパソコンで解く技術)を専門としていることがわかります。

ご専門は、建築の生産史それに都市史ですが、特に、この分野では非常に珍しい数値解析、つまりコンピューターシミュレーションの第一人者として大変有名な方です。

森博嗣「詩的私的ジャック」ノベルスP16抜粋

犀川が添削した学生の論文は「集落の生産と経済活動の関係の方程式を、多次元にネットワークするモデル(森博嗣「詩的私的ジャック」ノベルスP16引用)」です。このことから、数値解析の対象は、集落(都市や街)の成り立ちであると推測できます。

萌絵が国枝先生に渡された文献は「集落の形成論に関するモデル解析的アプローチ(森博嗣「詩的私的ジャック」ノベルスP129引用)」です。内容は人間の集落の形成過程を熱伝導方程式(拡散方程式)とし、シミュレーションするというものです。

やはり、集落の成り立ちを数値解析で解こうとしているようです。どうやって街が作られるか、という犀川の研究は百年シリーズなどの作品と通ずる部分があると考えられます。

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みんなの感想

「詩的私的ジャック」の感想としては、犀川先生と萌絵の会話、国枝先生いい、動機納得・共感・理解できる、恋愛小説、などがよく書き込まれています。

HOWではなくWHYという書き込みも多いです。

下の画像は、感想・レビューでよく使われた言葉をまとめています。言葉と言葉を結ぶ線はその言葉が同じ文で使われたことを意味しています。

「詩的私的ジャック」のレビューをまとめた図
テクニカル情報
レビュー数 文章数 異なり語数
1777 6656 5719
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