十角館の殺人|衝撃の一行と最後の一行解説【トリック・ネタバレ注意】

綾辻行人(あやつじ・ゆきと)著『十角館の殺人』について、衝撃の一行と最後の一行です。
十角館は、綾辻行人さんのデビュー作であり、館シリーズの第一作目でもあります。2024年3月22日(金)には、Huluで実写映像化作品が配信されました。


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衝撃の一行

「ヴァン・ダインです」

綾辻行人「十角館の殺人」新装改訂版P402

この一行で守須恭一(もりす・きょういち)の正体が明らかになります。本土にいた江南のあだ名は、ドイルであることが明かされますが、守須のあだ名は衝撃の一行をむかえるまで明らかになりません。江南=コナンというあだ名の決まり方から、守須はモーリス・ルブラン(ルパンシリーズの作者)だと思い込んでしまうので、衝撃が一層深まります。

孤島へ向かいミステリー研のメンバーは、お互いを有名作家のあだ名で呼び合っています。エラリイ、アガサ、ヴァン、ポウ、ルルウ、カー、オルツィの7名が孤島へ向かうわけですが、終盤になるまで本名は明かされません。

©講談社/辰巳四郎・喜国雅彦・坂野公一・綾辻行人

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最後の一行

「あそこにいるおじさんに、これを渡してきてくれないかい」

綾辻行人「十角館の殺人」

守須は“薄緑色の小さなガラス壜”を拾い、それを通りすがりの子供達に渡そうとします。おじさんというのは島田潔のことです。
ガラスの壜は、守須が冒頭に海に投げ捨てたもので、それを偶然拾います。中身は犯行を告白する手紙ですので、それを島田に渡せば、自白したのと同じことになります。

守須は壜を渡す前に「審判、か」と呟いております。これは、偶然、壜が自分のもとに戻ってきたことについて、神様が自分に罰を与えたと感じているためです。

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トリック解説

あの人とあの人が実は同一人物だったというトリックです(Aの視点に登場したBとCの視点に登場したDが同一人物だった、すなわちB=Dだった)。
十角館のトリックは叙述トリックと呼ばれています。一般的な意味は『作者が先入観や固定観念を使って読者を騙すトリック』です。メタトリックともいえるかもしれません。若干複雑なのは、十角館の場合、島田達は守須が島に行っているとは思っていなかったので、登場人物達も騙されていたことなのですが…、そんな細かい部分やミステリーファンの御託はさておき、とりあえず、叙述トリックが使われた作品として有名です。

犯人の守須が島田達に使ったトリックといえば、それは「島に行っていない」と嘘をついたくらいです。そのため、二つの視点(島と本土)という描かれ方をしていなければ、結末は、守須の嘘が判明して終わることになります。この場合、おそらくミステリーとしては大して面白くないはずです。

ところが読者は二つの視点を共有しています。そのため、実はあの人とあの人は同じ人だったと明かされ、衝撃を受けることになります。とはいえ、文章だけで共有していたので、外見的な特徴や名前が詳細に記述されていたり、挿絵が入っていたりすれば、守須が変装していない限り、読者には同一人物であることがすぐに見抜けるはずです。このように考えると、あえてわからないように書かれていたともいえます。
以上のように、嘘という単純なトリックが使われていること、読者という視点が利用されていることなどから、物語の中で犯人が探偵や刑事を騙すためにトリックを駆使したというよりも、読者を騙すために作者がトリックを仕掛けたという意味合いが強い作品といえます。

読者を騙すために登場人物が変装するというのは、物語の中の人物が読者や視聴者を意識しているということになります。登場人物自身が『自分はフィクションの中の登場人物』であると認識している作品もありますが、そういった作品ではない場合には、小説の中において、変装した理由が必要になってきます。
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感想

この作品を読んだのは、だいぶ前です。細かい部分はもちろん、結末すらも忘れたけれど、あの一文だけは憶えていたりします。もの凄い衝撃を受けたのは間違いないわけですが、トリックについて考えて見ると実は単純なものだったようです。アガサ・クリスティー作品でもそうですが、シンプルでわかりやすいトリックこそ、衝撃的な仕掛けが生まれるのだと思います。

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